家族が亡くなった後、多くの方を悩ませるのが相続手続きです。身近な人の死はそう頻繁にあることではないので、どのような手続きがあり、いつまでに済ませなければいけないのか、わからずに途方に暮れる方も多いでしょう。
そこで今回の記事では、故人の死後に行うべき各種手続きについて、その内容や期限、注意点などを詳しく解説します。
また、記事の後半では、相続手続きで不利にならないよう、遺品整理の際に注意すべきポイントについても説明します。
遺品整理と相続手続きで悩みがある方は、ぜひ参考にしてください。
故人の死後にまず行うべき手続き【5選】
ここではまず、故人の死後に行うべき5つの手続きについて、詳しく確認していきましょう。
死亡届の提出
故人の死後、まずは死亡届を各自治体の役所に提出する必要があります。
死亡届の提出先は、基本的に故人の死亡地、本籍地又は届出人の所在地がある市区町村の役所です。故人の本籍地でない役所に提出する場合は、2通必要になる場合もあるので注意してください。
死亡届は、故人が亡くなったのを知ってから7日以内に提出しなければなりません(ただし、国外で死亡があったときは、その事実を知った日から3か月以内)。提出はご家族や同居人が行うのが基本ですが、難しければ他の親族等が提出することも可能です。
死亡届は書式の右半分が、死亡診断書もしくは死体検案書を兼ねています。病院で亡くなった場合や、自宅で医師の診療下で亡くなった場合などは、死亡を確認した医師によって死亡診断書を発行してもらいます。
不慮の事故で亡くなった場合や孤独死では、警察医や監察医に死体検案書を作成してもらいましょう。
死亡診断書や死体検案書を作成してもらうには、それぞれ費用がかかります。死亡診断書であれば一般的に3000円~1万円程度ですが、死体検案書は数万円と高額になる傾向があります。
また、公的年金や保険金の請求時にも死亡診断書や死体検案書は必要になるため、コピーを取っておきましょう。
参考:(法務省)https://www.moj.go.jp/content/000011718.pdf
年金の受給停止
故人が年金を受給していた場合、日本年金機構にマイナンバーが収録されていれば手続きは原則不要です。通常、役所や勤めていた会社にマイナンバーを届け出ていれば手続きは不要ということになりますが、故人のマイナンバーが収録されているかどうかわからない場合はねんきんネット(https://www.nenkin.go.jp/n_net/index.html)や年金事務所で確認することができます。
日本年金機構にマイナンバーが収録されておらず、国民年金に加入している場合は、死亡を知った日から14日以内に役所や年金事務所に、必要書類を提出します。また、厚生年金の場合は、死亡を知った日から10日以内に、年金事務所に必要書類を提出しましょう。
なお、年金受給を停止手続きには、基本的に故人の年金証書と死亡届、死亡を証明する死亡診断書のコピーなどが必要となります。年金の受給停止手続きが遅れ、死亡した月の翌月以降の分の年金が振り込まれた場合は、後日返納する手間が生じてしまうので注意しましょう。
また、未支給年金がある場合も、このタイミングで請求しておくとよいでしょう。未支給年金は、年金支払日の翌月の初日から5年で時効にかかるので、早めに済ませておくことをおすすめします。
健康保険の資格喪失手続き
故人が亡くなったら、加入していた健康保険の資格喪失手続きが必要です。
日本国民である限り、「国民健康保険」「後期高齢者医療保険」「被用者保険」のいずれかの健康保険に入っています。国民健康保険と後期高齢者医療保険に加入していた場合は、死亡から14日以内に、役所で手続きを行います。
その一方、会社などで被用者保険(共済組合や協会けんぽなど、国や法人などの従業員が加入する健康保険)に入っていた場合は原則5日以内と、少し早めの手続きが必要となりますので、すぐに会社などに連絡しましょう。いずれの健康保険の場合も、会社などへの保険証の返納も必要なので注意しましょう。
また、家族の中に故人の扶養に入っていた人がいる場合は、故人の死亡時に資格が喪失されます。その場合は、保険証を返納したうえで、他の家族の扶養に入るか、新たに国民健康保険に加入し直すなどの手続きが必要となります。
公共料金などの引き落とし口座の変更
故人の死後、銀行が故人の死亡を知った時点で、故人名義の口座が凍結されます。口座が凍結されると、後日相続人などが凍結解除の手続きを行うまで、その口座からの入出金や引き落としができなくなります。そのため、故人の口座が公共料金などの引き落としに使われていた場合、速やかに引き落とし口座の変更手続きを行う必要があります。
水道・ガス・電気といった公共料金の口座変更の場合、死後いつまでと期限はありません。口座凍結後は引き落としができないので、別途請求書が届きます。故人の死後も同じ家で家族が暮らす場合は、なるべく早めに他の口座へ変更手続きを行いましょう。
また、故人の家にもう誰も住まない場合は、各公共サービスの解約を行います。こちらも期限はありませんが、遺品整理などを行う場合は、それが済んだタイミングで行うとよいでしょう。
その他、故人がサブスクリプションなどの定額サービスに加入していた場合、死後も料金がかかり続けてしまうので、なるべく早く解約手続きを行いましょう。
戸籍謄本の取得
故人の死後は、この後に説明する法的な相続手続きを進めることになります。故人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と相続人全員の現在戸籍を取得しておくと、後の相続手続きをスムーズに進めることができます。
戸籍謄本とは、戸籍に記載されている情報の写しであり、故人の血縁関係などを知る資料として使われます。
故人が生前に本籍地を変更していたり、遺族の知らない血縁者がいたりすると、すべての戸籍を取得するまでに時間がかかります。そのため、後の相続手続きをスムーズに進めるためにも、なるべく早く着手するようにしましょう。
相続に必要な法的手続き【8選】
以上の手続きが済んだら、続いて相続に必要な法的手続きに進む必要があります。
ここでは、代表的な8種類の法的手続きについて、詳細や注意点を確認していきましょう。
遺言書の有無の確認
故人の死後、相続手続きを行うためには、まず遺言書の有無を確認する必要があります。故人が遺言書を遺していた場合は、基本的にその内容のとおり相続することができるからです。
遺言には大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
自筆証書遺言とは、故人が自筆で作成した遺言です。自宅や貸金庫などに保管されていることが多いですが、近年では法務局で保管されているケースもあるので、見つからない場合は問い合わせてみましょう。
公正証書遺言とは、故人が公証役場で公証人に作成してもらった遺言書です。こちらの場合は、公証役場に保管されているので、問い合わせれば有無の確認ができます。
秘密証書遺言は、内容を秘密にして封印をしたまま、公証役場で保管している遺言書です。こちらも、公証役場に問い合わせれば有無がわかります。
これら3つの遺言のうち、自筆証書遺言と秘密証書遺言に関しては、遺言を執行するために家庭裁判所での検認手続きが必要です。一方、法務局に保管されている自筆証書遺言や公正証書遺言の場合は、検認は不要となります。
相続財産(遺産)の調査
故人の遺産を適切に相続するために、その全容を調査する必要があります。
主だったプラスの遺産としては、預貯金・不動産・有価証券・貴金属類・自動車などがあります。故人の預金通帳や各種取引の記録などを調べ、遺産を特定します。
また、遺産には上記のようなプラスのものだけでなく、借金などのマイナスのものも含まれます。プラスの遺産だけを相続することはできないので、マイナスの遺産が多い場合は、後述する相続放棄も検討する必要があります。
相続人の調査
相続手続きを開始するにあたって、相続権を持つ人、つまり相続人が何人いるかを調査しなければなりません。遺言書がある場合はそれに従い、遺言書が無い場合は故人の配偶者や子ども、父母、祖父母などの順に法定相続人が決められています。
相続手続きを進めた後になって、遺族の知らない相続人が出てくると、相続トラブルに繋がったり、手続きをすべてやり直さなければならなくなったりします。特に、後述する遺産分割協議の場合、相続人が1人でも欠けていると無効になるので注意が必要です。
相続人の調査は、前述した戸籍謄本をもとに行います。戸籍を見て初めて、遺族の知らない相続人の存在が判明することもあるので、戸籍謄本の取得は早めに済ませておくことが大切です。
なお、遺言書で相続人が指定されている場合は、すべての相続人を特定させる必要はありません。しかし、後々のトラブルを防ぐためには、なるべく調査をしておくことをおすすめします。
単純承認・限定承認・相続放棄の決定
相続人は、原則として、相続開始を知った日から3ヶ月以内に、「単純承認」「限定承認」「相続放棄」のいずれかを選ぶ必要があります。3ヶ月以内に限定承認又は相続放棄をしない場合は、自動的に単純承認をしたとみなされます。単純承認・限定承認・相続放棄それぞれの違いは、以下の通りです。
単純承認 | 故人の財産をすべて引き継ぐ。その際、プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産もすべて対象となる。 |
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限定承認 | 故人の財産のうち、一部の財産だけを限定的に引き継ぐ。故人にマイナスの財産があった場合も、相続したプラスの財産額を超えるものは引き継がなくて済む。 |
相続放棄 | 故人の財産を一切引き継がない。借金などのマイナスの財産が多い場合によく選ばれる。 遺品整理を行うと、相続放棄ができない可能性があるので注意。 |
初めから単純承認をする想定であれば、特に特別な手続きは必要ありません。しかし、限定承認や相続放棄には3ヶ月以内という制限があるので、それまでに故人の財産状況を明らかにしておかないと、不利な相続をしてしまう可能性が高まります。
なお、限定承認と相続放棄を選択する場合は、家庭裁判所で申し立て手続きを行う必要があります。
相続人による所得税の準確定申告
故人が自営業などで収益を得ていた場合、相続を知ってから4ヶ月以内に、相続人が代わりに確定申告と納税を行う必要があります。これを「準確定申告」と呼びます。
準確定申告をしないと、死亡前の故人の収入に対する所得税が算出できません。その結果、相続手続きが一通り完了した後で、追徴課税などが発生する可能性があります。準確定申告が必要な対象の期間は、1月1日から死亡日までです。1月1日から3月15日までの間に、前年分の確定申告をせずに死亡した場合は、前年分も対象となります。
故人が会社勤めをしていた場合であれば、基本的に準確定申告は必要ありません。しかし、副業で大きく収益を得ていたり、不動産賃貸をしていたりまたは株式の配当金がある場合は、準確定申告が必要です。
目安として、故人が生前に確定申告をしていたのであれば、準確定申告をしなければならないと考えておきましょう。また、中には税理士に確定申告作業を委託している場合もあるので、その場合は故人が委託していた税理士に連絡してみることをおすすめします。
遺産分割協議の実施
故人が遺言書で相続対象者や相続分などを指定していなかった場合は、相続人全員で「遺産分割協議」という話し合いを行います。
遺産分割協議は全会一致が基本なので、1人でも反対者が出れば遺産分割協議は成立しません。また、相続人が欠けた状態で行われた協議もまた無効となるので、必ず相続人全員が参加しなければなりません。
遺産分割協議で相続分配の内容が決定したら、遺産分割協議書を作り、それぞれの相続人の署名・押印を行います。遺産分割協議書の作成は必須ではありませんが、相続手続きにおいては、遺産分割協議書が必要になることも多いので、作成しておくことをおすすめします。また、相続税の申告などを行う際は、遺産分割協議書の提出が求められます。
相続税の納付・申告は10ヶ月以内に行わなければならないため、遺産分割協議も10ヶ月以内に終わらせるようにしましょう。万が一、遺産分割協議が期限内にまとまらなかった場合は、法定相続分での申告書を提出します。
なお、遺産分割協議で合意に至らなかった場合は、遺産分割調停、遺産分割審判と、家庭裁判所での手続きで解決を図ることになります。
預貯金・有価証券などの名義変更、不動産の相続登記
遺言書や遺産分割協議などによって遺産を相続したら、預貯金や有価証券などの名義変更を行います。先述の通り、故人の預金口座などは死後凍結されますが、相続手続きを行えば凍結を解除できます。
相続手続きや名義変更手続きの方法は、各金融機関や証券会社によって異なるので、詳細は故人の取引があった金融機関に確認してみましょう。なお、遺言書がない場合は、相続人全員分の署名・実印で押印した遺産分割協議書や、それぞれの印鑑証明書などの提出が必要となることが多いです。
また、故人が不動産を所有していた場合は、管轄している法務局に赴き、相続登記の手続きを行いましょう。相続登記の手続きは、これまで相続人の任意とされていましたが、2024年4月1日から義務化されるので注意が必要です。
相続税の申告・納付
遺言書の内容や、遺産分割協議の結果によって相続する財産が決まったら、その額に応じた相続税を申告・納付する必要があります。相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
なお、相続税には基礎控除があり、相続財産の総額が「3000万円+600万円×法定相続人の数」以下だった場合は、相続税は発生しません。ただし、詳しく算出した結果、控除額を超えていると判明する場合もあるので、なるべく早く相続財産の調査を行い、遺産総額を明らかにする必要があります。
10ヶ月という期間は長く感じられるかもしれませんが、その間にも他の手続きを行わなければなりません。そのため、故人の死後は、早い段階で各種準備を進めていくことが重要です。
相続手続きを進めるために遺品整理で注意すること
ここでは、相続手続きで困らないよう、遺品を整理する際に注意すべきポイントを、3つ厳選してご紹介します。
これから遺品整理を行う方は、ぜひ参考にしてください。
注意点①:他の相続人や親族に知らせてから始める
遺品整理を始める際は、事前に他の相続人や親族に知らせることが大切です。
故人の遺品は、広い意味で言うと遺産の一部です。そのため、それらを他の相続人や親族の断りなく処分してしまえば、他の相続人や親族の物を処分してしまった等、後々トラブルに発展しかねません。
遺品整理はもともと同居する親族が主に行ってきましたが、昨今では一人暮らしの世帯が増え、他の相続人や親族がばらばらに住んでいたり、遠方だったりすることも多々あります。
相続人が複数人いて誰が遺品整理をするか決めていなかったり、住んでいる場所が遠いため遺品整理が困難だったりすることもあるでしょう。
そのような場合は、事前に相談して遺品整理の担当者を決めておくのがおすすめです。また、遺品整理を専門業者に依頼する際も、作業費用は誰が支払うか、または相続人で分担するのかをはっきりと決め、相続人が作業に立ち会ったり、次に解説する残しておくべき書類などをしっかり伝えておきましょう。
注意点②:手続きに必要な書類を誤って捨てないようにする
遺品整理を行う際は、相続などの各種手続きに必要な書類を、誤って捨てないように注意しましょう。
ここまでご説明してきた通り、故人の死後はさまざまな手続きを行わなければなりません。そこで必要となる書類を捨ててしまうと、再発行に時間がかかったり、手続き自体ができなくなったりなどのトラブルに繋がります。
具体的には、以下の書類等を重点的に残しておくように気をつけましょう。
・遺言書(遺書)
・預金通帳
・印鑑
・身分証明書
・年金手帳(年金証書)又は基礎年金番号通知書
・健康保険証
・ローンの明細
・不動産の権利書(登記済証)
・証券類(有価証券・保険証券)
なお、遺品整理を業者に依頼する際、中にはしっかり仕分けをせず、まとめて遺品を処分してしまう業者もいます。重要書類を捨てられるリスクを最小限に抑えるためにも、遺品整理は複数の業者から見積もりを取り、作業内容と料金を明確に提示してくれる信頼できる業者に依頼するようにしましょう。
注意点③:相続放棄ができなくなる可能性がある
遺品は遺産の一部なので、それを整理することは、遺産を相続したとみなされる可能性があります。そのため、遺品整理を行うと、相続放棄ができなくなる可能性があるので、注意が必要です。
たとえば、故人が多額の借金を残していて、それを知らずに遺品整理を行うと、相続放棄できず、その借金を相続せざるを得なくなる可能性が出てきます。
相続放棄のタイムリミットは先述の通り、相続開始を知ってから3ヶ月以内です。そのため、まずは相続財産の調査を行い、遺品を処分する前に単純承認・限定承認・相続放棄のどの方法を選ぶかを決めるのが望ましいです。
どのような遺産があるかわからず故人の部屋を片づけながら遺産の調査をおこなう場合は、むやみに遺品を捨てたりすることが無いよう注意が必要です。
まとめ
今回は、「遺品整理と相続手続き」をテーマに、故人の死後に行うべき手続きと、遺品整理で注意すべきポイントについて、詳しく確認してきました。
人が亡くなると、その後には多くの手続きが必要となります。中には期限が設けられているものもあるので、なるべく早く相続放棄するのか、相続するのかを選び、相続する場合には速やかに相続手続きに着手するのがおすすめです。
事前に手続きを意識せず遺品整理を始めてしまうと、相続放棄ができなくなったり、手続きに必要な書類を捨ててしまったりして、不利益を被る可能性があるので注意が必要です。
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この記事を監修した専門家 瀧井 喜博氏
一時は司法試験を断念しベンチャー企業に就職したが、その会社がいわゆるブラック企業であったことから、良い職場環境を創出したいとの思いを抱く。また、中、高の友人に、「日本で一番弁護士に向いている。絶対に弁護士になって欲しい。」という趣旨の言葉をもらい、司法試験に再挑戦。
平成25年に弁護士となり、平成27年に「瀧井総合法律事務所」を開設。
「依頼者の『困った』を『よかった』に」をスローガンに拡大を続け、平成31年に「弁護士法人A&P」を設立。
枠にとらわれず、「感動」を生み出すことができるチームの構築に奔走中。